渦巻きのような比較的細く長い線が密に集合している文様では、強度的な問題により二枚に彫り分ける必要がある。この場合、二枚の型紙によって短い線分をつないでいくような構成となっている。また花弁においても、No.444の放射状のスジの外端が不安定になる問題を、花弁外縁を別型(No.445)とすることで解決している。さらにそのNo.445の花弁外縁を強化するためこれを分割し、その切れ目をNo.444の少し長目のスジで補完している。このことがNo.445の花の内側の型紙部分の吊りを増やすことになり、全体の安定性が向上している。このように、互いの不足部分を合理的に補完し合うことによって文様空間を効率よく分担している。

合成画像は防染を前提として作成した。二枚の型紙を連続して型付けし終わったのち浸染する。糊の画像どうしを重ね合わせてもらうとわかるように、型紙の彫り抜き部分はわずかに重複している。重複している部分が濃い赤となり、その部分は二回、薄い赤の部分は一回糊が置かれる。一回でも糊が置かれれば染料が入らないので、それ以外の部分が染まることになる。

一つの文様をどう彫り分けるのかは、ある程度経験則に則って決定されるのであろう。私は実際の工程を見たことがないので断定はできないが、型紙に残されている墨刷りの跡からそれを想像することはできる。まず文様原案をなんらかの方法で二枚の型地紙に転写する。その1枚を使って主型(No.444)を彫り、それをもう一枚の型地紙の上に置いて墨刷りをする。これが消型(No.445)の原版となり、墨が置かれた部分以外の文様部分をわずかに重複させながら彫っていく。私的な想像の域を出ないが、このようにして主型、消型の二枚の型紙が完成しているのではなかろうか。

No.444 型紙
No.445 型紙
No.444 糊
No.445 糊
No.444-445 合成画像