このような文様の場合、地染まりであれば一枚の型紙に彫ることができるが、地白の場合は二枚に彫り分けなければ不可能である。比較的単純な文様であれば、糸で吊るための適切な支持体となる安定した型紙部分が多いため、糸掛けによって可能となる場合もある。また、吊りの部分を残したうえでデザイン的に有効に生かしているものもある。しかし、この合成画像のように複雑で微細な文様、特に点描などが広範囲にわたっている場合、仮に一枚で彫り上げようとすると、多数の細かな紙を宙に浮かせなければならないため不可能である。紗貼りの技法が考案された大正期以降であればある程度の「宙浮かせ」も可能であろうが、我が家の営業期にその技法はなく、仮にあったとしてもこのように微細な点描などは不可能ではないかと思われる。

まず主型で強度的なバランスが崩れないところまで可能な限り彫る。そして残った吊りの箇所に糊を置くための部分を消型として彫る。特に点描においては個々の点の両側に十分な支持体を残す必要がある。主型において個々の点の両側二カ所が吊られ、消型において対応する点の吊りが主型のそれと交差するようになっている。点を軸として二本のブリッジが交差しているようなイメージである。このようにして主型と消型で互いのブリッジを消し合っている。

合成画像は防染を前提として作成した。二枚の型紙を連続して型付けし終わったのち浸染する。糊の画像どうしを重ね合わせてもらうとわかるように、型紙の彫り抜き部分はわずかに重複している。重複している部分が濃い赤となり、その部分は二回、薄い赤の部分は一回糊が置かれる。一回でも糊が置かれれば染料が入らないので、それ以外の部分が染まることになる。

このような文様をバランス良く二枚の型紙に彫り分けるには、単に彫り抜く技術だけではなく、文様を適切に分解する総合的な判断能力が必要となってくるであろう。

No.764 型紙
No.765 型紙
No.764 糊
No.765 糊
No.764-765 合成画像